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<第22号>くらしの最低保障引下げにNO!

生活保護基準引下げ違憲訴訟 名古屋判決

司法の独立性はどこにいったのか

不当判決

2013年から始まった生活保護基準引き下げに対し,全国で29地裁,1000人を超える原告が立ち上がり裁判が進んでいます.

 

去る6月25日,名古屋地方裁判所にて判決が出されました.新型コロナウィルス感染症対策のためとはいえ,傍聴席はたった12人.原告,弁護団,支援者が見守る中,名古屋地裁角谷昌毅裁判長は,「原告の請求を棄却する」と,訴えを退けました.傍聴席からは「不当判決だ」との声.一瞬で終わってしまいました.

 

生活保護基準引下げ反対埼玉連絡会では,当日,埼玉総合法律事務所に集まり,判決後に即座に行われた愛知,大阪,東京の弁護団のやりとりや,愛知での報告集会を,埼玉の弁護団が解説しながらZOOMを通して見守りました.

 

厚労大臣の大幅な裁量を認める

裁判後,「生活保護引き下げ愛知連絡会」が報告集会を開きました.

 

弁護士より説明された判決内容は唖然とするものでした.これまで,原告側は,生活保護の引き下げにあたって,引き下げの大半の額について専門部会の議論を経ていないこと,専門部会で出された数字をも勝手に操作したこと,従来にない計算式を突如用いながらその説明が不十分であること,最低限の生活保障を定めるとき後退させてはならない原則があることなど,実際の計算や合理的根拠をもって追及してきました.

 

判決文では,これらを「…と認める」としながらも,「…しかしながら…とまではいえない」というような歯切れの悪い言い回しをしつつ,最終的には「厚生労働大臣の判断の過程及び手続に過誤はない」と,厚労大臣の裁量の範囲を許容してしまうものでした.

 

「専門技術的考察」を無視

名古屋判決は,生活保護の立法主旨やこれまでの判例を全く無視したものでした.

 

そもそも,生活保護法の立法課程においては,立法担当者だった小山進次郎は,「厚生省当局側としては,保護の基準はあくまで合理的な基礎資料によって算定されるべく」としました.

 

また,老齢加算廃止訴訟の最高裁判決(2012年原告敗訴)では,保護基準の具体化にあたっては「高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断」を前提としました.

 

名古屋地裁の裁判では,専門部会である生活保護基準部会の部会長代理だった岩田正美氏が証人尋問に立ち,「部会では議論もしていないわけだから,容認もしていない」といった証言もしました.しかし,判決文にはこうしたことすらも触れられず,被告国側の主張を丸呑みしたものでした.

 

司法の独立性はどこに

さらに驚いたことは,自民党が生活保護を1割削減することを公約した選挙後に,削減が実施されたことに関して,「自民党の政策は国民感情や国の財政事情を踏まえたものがある.これらの実情を考慮することはできる」とわざわざ判決文の中で示したことです.

 

原告側の,基準引下げに関する数字的なおかしさ,生活実態の具体や専門家らの証言など,合理的根拠を示していることに対しては議論の遡上にもあげず,何の根拠も示されていない「国民感情」や「財政事情」を時の政権側に沿う形であえて示すことにどんな意味があるのでしょうか.

 

そこで容認された「国民感情」とは.文脈からすればいわれのない生活保護バッシングと重なり,そのようなことも司法の場で認め,人権を守る司法の役割の放棄を晒しているとしかいえません.

 

確信をもって闘っていこう

愛知の報告集会で原告の皆さんから,「政府は私が死ぬことを待っているのだろう」,「本当に悔しい.みんなと闘いたい」,「『国民感情』というけれど僕たちの気持ちは無視ですか.人間として扱ってほしい」と改めて訴えられました.

 

埼玉でも言葉にならないほどの悔しさを抱きながら見守っていました.

連絡会代表の寺久保光良さんから,「唖然とするような判決.自民党の主張をわざわざ判決文に出すというのは,本当に司法の右傾化が進んでいる.権力を持った人たちと闘っているのだから大変だが,蟻は象も倒す,その気概で闘っていきたい.歴史の流れとしては,私たちは王道を歩いている.確信をもって,決してめげることなく頑張っていきましょう」と結びました.

 

さいたま地裁は,いよいよ証人尋問の準備に入ります.この裁判を通じて,国民の「健康で文化的な生活」を後退させないこととともに,民主主義や三権分立といった大事な国の背骨となるものを問うものだと感じます.多くの人たちと,正していきましょう.

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くらしの最低保障引下げにNO!<第22号>
2020年9月4日
発行:生活保護基準引下げ反対埼玉連絡会
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